軍馬

朝日新聞2014年12月30日の文化欄で 成城大学の教授が馬と戦争について「第一次大戦初期は騎兵が主力だったが 戦車や大砲・機関銃が登場したため物資の輸送が軍馬の主な役目になった」とか言ってました この人は騎馬民族征服王朝説の亜流なのかな

15世紀頃から大砲は盛んに使われていました 騎乗姿の肖像画が思い起こされるナポレオンは砲兵科の出身で 巧みな大砲の運用により嚇々たる戦果を挙げたのです またフランスは国民軍()ですから 当時すでに歩兵が主力でした
軍馬は大砲や食料(大半は飼葉)等の輸送用です 騎兵ももちろんいましたが 偵察や伝令が主な職種になります
広い野原で互いに陣型を組んで それを突き崩した方が勝ちになるみたいな ナポレオン以前の傭兵隊同士の戦いなら 攪乱のため騎兵が有効かもしれません 攻城戦や三日陣地・塹壕に対しては使えません

第一次大戦初期は野戦が主だったし 近代軍備を整えてない国もあったでしょう 中世さながらに騎兵が出陣することがあったかも ちょうど戊辰戦争で徳川方が先祖伝来の甲冑と火縄銃を持ち出したようなものです 三日陣地に対し騎兵が無効なのは 長篠の戦いで証明されています

チンギス・ハンは馬を重視しましたが 長征の機動力のためで やはり輸送が主です 廃馬はもちろん食料にしました(タルタルステーキやハンバーグステーキの始まりという説がありますね 少なくとも関連はあるでしょう) 戦争で火器が登場したのは元の時代です 馬蹄で蹴散らして版図を広げたわけじゃない
またギリシャ・ローマ時代の戦争では 対峙するそれぞれが将軍や代表を出して 一騎打ちで勝負することもあったようです 勝った方が相手方の金銀財宝を鹵獲します 敵方の兵も奴隷として戦利品になりますから 無駄な消耗を防ぐためです

戦争は貴族と奴隷や傭兵が担当するものでした 戦いに勝って戦利品・領地また報奨金・自由の身分などを得るのが目的です ですから職業軍人といっていいものです 後代の国民軍による総力戦・殲滅戦と同様に捉えてはいけません
そのため重騎兵・騎士など騎馬での戦いは 戦場機動性や衝撃力より 見た目の派手さが重要になります ゲームやショーとまでは言いませんが 一種のパフォーマンスまた戦意高揚の意味がありました
日本の戦国時代に 美麗で風変わりな鎧兜や陣羽織を身につけたのも 同じように己の戦功を誇示するためでした 流鏑馬も那須与一の逸話も同様でしょう それほど実戦に役立つものではありません

いつの時代でも戦争は輜重補給戦です 20%撃滅論は補給が途絶えた時に勝敗が決するという経験則です 2割の損害を出すと組織は機能不全に落ち入るのです(その前に部隊を一時的にコンパクトに編成し直すのがリストラクチャリング)
人間は古来から牛馬を使役してきました ことさら戦争と結びつけることに何の意義があるのでしょうか 戦時においても輸送・移動の手段として用い非常時の食料ともした 平時とまったく同じことです 戦場前縁に投入することはないと思います

蛇足です 3〜4世紀の日本は物資も人の移動も水上交通が主でした 江戸時代に街道が整備されて人の行き来は内陸になっても 物資輸送は沿岸伝いと川を遡ることで行われています
そして我が国は平坦部が少ない山がちの地形です 満州平原みたいに馬賊が縦横無尽に駆け回るなんてありえません 騎馬民族征服王朝説がいかに荒唐無稽なトンデモ学説かわかるでしょう