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竹と月と芋

芋名月・栗名月・豆名月という言葉がありますが 米名月はない 米と月は結びつけられていないのです[01] … Continue reading 月見は芋や豆それに栗といった作物を供えたものです それも必ず竹で作った笊や箕に盛りました 檜の三方に米の団子を供えることはなかったのです

竹取物語=かぐや姫のお話は竹がテーマになっています かぐや姫は三月で大きくなります(筍のような早さ) 季節単位・年単位ではなく月単位の時間経過 その間稲藁のつぐらではなく竹の籠で育てられています
ただし竹取物語に芋はでてきません 今昔物語集版では月との関係さえありません 後段になって 実は月の世界の者と言い出すのも唐突すぎます もともとの話が変化していったのか幾つかの話が結びついたのか

今の月見は団子を三方に載せて供えます 月見団子の作り方は ご飯を蒸して芋と混ぜ つぶして里芋の形に丸め黄粉をまぶします 米が主となっているものの やはり芋と豆です(芋餅・芋団子として各地に伝わります) これは嵩増しではなく米文化と芋文化の融合を象徴している気がします

月を愛でる人たち(芋=縄文文化) 欠けを忌む人たち(米=弥生文化)の習合が 十五夜の月見の風習かもしれません そしてあらゆる祭礼が宵祭なのも 月の文化の名残ではないか(東北のねぷた かんとう なまはげ 各地の盆踊りや神楽)[02] … Continue reading

天皇陛下が月を見るときは見上げることをせず 水面に映る月を見ると聞きます かぐや姫のことを思い出してしまうから? 太陽神が主神で月の神は侍神ですから 見上げることを憚ったのでしょう(それにしては大嘗祭は夜に執り行われます)
銀閣寺(慈照寺)は月待山の麓にある月見のための館です それも池に映る月を楽しむものでした(内田百閒が描く松濱軒の大池月影が そんな感じなのでしょうか)
向月台は江戸末期に造られたそうですが 勝手にあのような造形を築くことは考えられず 類似のものは以前からあったでしょう 白砂に照り映える白銀の月明かりを愛でるものです 築山は室内から眺めるためにあります その上に登って月を見るなんて馬鹿なことはしません[03] … Continue reading
 
米作が中心の大和朝廷の神話(古事記)は太陽神の天照大神が中心です 日照と水は米作りに欠かせませんから 月読命の存在はじつに影が薄い この女神の名は月を読むで明らかに農業神です しかし米は司ってないのでしょう イモ類の原産地はジャングル(竹林?)の中なので直射日光を嫌います

太陽と月の大きな違いに満ち欠けがあります 欠けを忌む人たちにとって月は不吉だったのかもしれません なにしろ日食にあれだけ大騒ぎしたのです 後の世でも日蝕の日は廃務といって 朝廷の全ての活動を停止したそうです 稲作民が優勢になったのは主食の保存性のためかと見ますがいかがでしょう

かぐや姫(なよたけ姫)が月に帰るのは満月の時でした 車に乗ってと記載されていますが 空を飛ぶ乗り物は船ではないかと思います 各地で行われる祭礼の神輿が担ぎあげられ(宙に浮かぶ)揉み上げられるのも 船を表すような気がします 竹取翁に富をもたらしていますから豊穣の神様であって 天照大御神の食事を担当する豊受大神のことかもしれない

この神様は別名を屋船豊宇気姫命といい 羽衣伝説とも関係があるようです 船の文字が使われているのが興味深いですね 航海と漁業の神でもあるのでしょう
羽衣伝説の舞台は水辺ないし海岸となります 潮の満干は月が影響していて また月や星は海路の標でもあります 海の民と月の関係は深いものです

古事記・日本書紀は船に関する記述が多数あります 葦船なんかヘイエルダールのコンティキ号(たしか屋根を架けた形状です)が思い起こせます 日本人は海洋民族であったことの証左だと私は考えます
インカ文明の末裔であるペルーに昔より伝えられる農業暦で 収穫は満月の翌朝に行うというのがありました 満月は稔りを表し そして月見は稔の秋です

註釈

註釈
01 満月には月の兎が餅を搗いてると言われます 月の影の見方によると思いますが 臼と杵の形状は豎臼と竪杵です これは餅搗きではなく籾摺り用ですね
搗き餅が一般的になるのは 江戸中期以降です ところで兎は出雲神話に出てきます 民話にもよく登場します 月読命と関係があるのかもしれない
02 考えてみると太陽を拝む昼の祭礼というのはほとんど聞いたことがない 天照大神を頂点とする神話・民話も記紀以外にはないようだし どこかで歴史の断絶があったと思えます
03 銀閣寺は黒漆塗りです 仄かな月明かりに浮かぶ 銀色の向月台の姿を邪魔しないためでありましょう 立待月・居待月・寝待月 建物の中から月を見るのです かつては現在の建物の隣に 観月のための館があったといわれます 銀閣寺の銀は月明かりの意です
備前閑谷学校講堂の庭は花頭窓から眺めます 暗い室内の床は黒漆で塗られ 窓を通した庭の色彩が照り映えます 漆黒の空間に浮かぶ景色 この造形を何といったらいいか 窓に切り取られた風景を愛でる 他の国には見られない美意識です

カテゴリー: 日本の伝統・本流