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洋菓子を作る売る

ここ数年 埼玉県内に洋菓子店が増えています パティシエがオーナーの店です 創造的な菓子からオーセンティックなフランス菓子と さまざまな個性で姸を競っています 何軒かの店のものを食べました いずれも素晴らしく美味しい洋菓子です
これらの新しい洋菓子店と異なる 昔ながらの洋菓子メーカーと洋菓子店での体験です

洋菓子メーカー

ちぼり湯河原スイーツファクトリー という施設があります 「ちぼり」は贈答用焼き菓子のメーカーです アソートクッキーでは 国内トップクラスのシェアを持つそうです
それにしては あまり聞きなれない社名です 卸やOEMでの製造が主だったのでしょう スイーツファクトリーは本社工場に併設された 自社製品の直売店です つまり小売りにも力を入れ始めたことになります

行ってみた印象を一言でいえば 実に中途半端です 小売りに慣れてないから 仕方ない面はありますが 贈答用として無難な線を求めているのでしょうか
まず商品が どっちつかずの中級品イメージです 品質はよく内容に比較して割安なんだが 高級感はないので お得という感じがしない
ショップ内も土産物店風(土産物に違いないけど)で 取り留めのない陳列 レジカウンターが狭いためか 買った商品の扱いがぞんざいです
主力商品である アソートクッキー類の(缶)は どこか昭和風の懐かしいものです(とくに赤い帽子の額縁を模した掛け紙は好きです) 時勢にこびない姿勢はいいが 伝統的な意匠を狙ったわけでもなさそう
また並んでいる商品を見ると 蜜柑を使ったものが何種類もあります

この蜜柑を使った製品のパッケージも ちょっと昭和レトロ風です
でも蜜柑といえば和歌山が想起されます 熊本の蜜柑も大変おいしい 童謡「みかんの花咲く丘」は 伊東市亀石峠がモデルだそうです 実際「みかんの花咲く丘」という名前の洋菓子があるようです
静岡は気候温暖な土地なので蜜柑はイメージできます 湯河原と蜜柑は今一つイメージとして結びつきません 蜜柑産地としての知名度が低いから 地場産業振興のために 農家とコラボレーションした製品かもしれません
志はよいが焦点がぼけていて 訴えるものが何もないのが悲しい オレンジでなく蜜柑というところが好ましいのに

「ちぼり」はいくつもの子会社があり それぞれ商品ラインがあります しかし「ちぼり」としてのは全くできていません
B2Bの業態だったので取引先の求めに応じた製品を作るだけですね 自社の特徴を打ち出す必要がなかった どこにでもありそうな特徴のない ありきたりな菓子ばかりです
小売りをしてないし情報発信もしないから にとって 捕らえどころのないメーカーとなったのでしょう

街の洋菓子店

熱海に三木製菓という洋菓子店があります とても美味しい洋菓子を作っているのですが 特筆すべきは店構えです 佇まいがまさに昭和の洋菓子店です
店舗だけでなく ケーキ職人である店主の風貌から 売っているお菓子 パッケージまで 昭和そのままです
昭和23年の創業といいますから 当時としては ハイセンスで高級な店だったと思います だから単価は安くない
この店が確実にお客を捉えています なにも昭和レトロを懐かしんでいるわけでなく 昔から変わらぬ美味しい菓子を作り続けている故に他なりません いたずらに時流を追いかけないから 店舗デザインを変えることもしない
が一貫しているのです おそらく初代から受け継いでいます これが単なる暖簾や歴史でない ブランディングの正しいあり方です

2022年4月22日追記=さすがに今は代替わりしたようですが 当代も相変わらず昔からの美味しい菓子を さらにリファインして作り続けることでしょう)

洋菓子を売る

街の洋菓子店と洋菓子メーカーは そもそもあり方が異なりますから 比べることができない でも小売りをやるのなら共通点はあります
たとえば お菓子屋さんの包装には独特のものがあり 決して商品を裏返すことをしません ケーキでない焼き菓子なら 表裏ひっくり返しても差し支えないのでは と考えていたら駄目です お客さんは商品の扱いを見ています

2022年4月22日追記=上記の浦和の菓子店でチーズケーキの美味い店がありました この前買ったら味が落ちていましたね よくあるパターンですが 売れすぎているからだろうか 焼き菓子の味は変わらないのですが パッケージングがひどく雑になっています 手土産に使うようなものなのに まるで配慮がなく菓子屋として客の方を見ていない 越後弁でいうと じょっぺ まんき になっているのです)

「ちぼり」の昭和風な製品は あえて狙ったものかどうか分かりません 何しろ方向性が曖昧なもので 何を目指した商品か不明なのです 製品・パッケージ・店舗・売り方すべてがボヤケている
三木製菓は明確です 昭和を売りにしているんじゃないが 作っている菓子が昭和の頃から変わらない だからパッケージも店舗もそのままです 流行を追っかけてリニューアルなんてしないのです

洋菓子のブランディング

とくに菓子類は見た目が三分の一 味が三分の一 残り三分の一はブランドイメージです これがすべて一致すればいいのですが 昨今はTVのやネット上の噂話で売れるものも多い[01] … Continue reading

マミーズ・アン・スリールなる店のパイを食べました リンゴの量が多すぎカットもでかすぎるため パイ生地とのバランスがなってない リンゴのコンポートなら不味くはないのだが アップルパイとして成立していません[02] … Continue reading 品質ではなくイメージだけなのです
三木製菓さんでは よい紅玉が入ったときだけ タルトタタンを焼くそうです パイに限らず土台である生地の出来が菓子の完成度を左右します リンゴを売りにするのではなく自家製タルト生地にふさわしい紅玉リンゴを求めているのです 三木製菓さんは「ラング・ド・シャ」が得意ですからなおさらです 時流に媚びない立派な姿勢かと思います[03] … Continue reading

ラング・ド・シャを丸めたシガールは ヨックモックの看板商品です ちょっと気の利いた東京土産として売り出し(ラング・ド・シャは壊れやすいので 丸めたんじゃないでしょうか あと食べやすさですか)一時代を築きました 本社が青山というのも当時の世相として頷けます 見た目・味・ブランドイメージが一致しています[04] … Continue reading

2021年1月28日追記=安菓子のシャトレーゼ[05] … Continue readingが亀屋万年堂を子会社にしました では老舗和菓子の亀屋万年堂と言ってます いち消費者の目から見れば 万年堂にはナボナのイメージしかありません すごく違和感を抱いてを見たら 亀屋万年堂自身がそう称しているのです これも自由が丘のイメージに頼ったブランディングのつもりだったのでしょうが 実態はナボナも含めてドラ焼き屋さんですね まったく乖離してます)

註釈

註釈
01 横浜馬車道の地名を冠した とんでもなくまずい菓子屋があります 鎌倉の叔母に 観光客が殺到しているある店のことを聞いたら 知らないといいます よそから来た資本が小町通りに店を出しているのです これらは土地のイメージを借りて売っている(伊勢屋・越後屋といった屋号とは異なります) そして実際に売れるのです
02 「明治禁断のアップルパイの中身だけ」という商品があるようです こういう風潮を捉えているのですね このマミーズ・アン・スリールのアップルパイは 中身をほじくり出して食べるのが正しいのかもしれない
してみると側のパイは食べることもできる容器に過ぎないわけだ まさか中身だけ食べてパイ生地を捨てるようなことはしないだろうが(実際うまくない サクサクじゃなくてモチモチのパイ皮 三立源氏パイの方がよほど美味い)
03 アップルパイのリンゴがうまくても それは果樹園農家のおかげです お菓子屋さん・菓子メーカーの力量はパイ生地にこそ発揮されます 同じくまんじゅうの餡に 十勝産の小豆を使っているから うまいわけじゃない 餡練りの技術で味は決まるのです
アップルパイといえば リンゴが丸ごと入ってるというキワモノがあります 愚劣極まりない でもどうやって食べるのだろう
04 もらい物のモロゾフの豆菓子(!)がありました パッケージの裏を見ると下請けに作らせています おそらく中国産の粗悪なピーナッツを使った碌でもない商品 でん六豆には遠く及ばない(比較するのも失礼です) 他に焼き菓子があり これは「ちぼり」製です 文句も出ないが称賛するまでもないのが「ちぼり」の持ち味?
パッケージの表には麗々しくKOBEと書いてあります 菓子ではないのですが 大阪の会社なのに神戸パンというのがあります こんな商売のやり方は関西に多いのでしょうか そういえば堂島ロールという珍妙・愚劣な物が流行りました あれもその名の通り大阪発です
05 シャトレーゼがフランチャイズの形で首都圏に進出した時は 百円ケーキだったと思います その後直営店のみになってから方向性を変えていますね まだ街のケーキ屋さんが健在で百円ケーキはあまり売れなかった ユニクロの経緯と似ているかもしれない

カテゴリー: ブランド・ブランディング マーケティング戦略論